しかし、ルーシーの言っていた通り、ノクスたちの力はそれを遥かに凌駕していた。ノクスたちは狼の群れを全く気にする様子はなく、ひたすら食事に没頭していた。
驚くべきことに、集まってきた狼たちは力の差を感じているのか獲物を奪うことをせず、ノクスたちの周辺に座り込んだ。その態度はまるで、ノクスたちが食事を終えるのをじっと待っているかのようだった。その不思議な光景に、レティアは少し首を傾げながらも興味深そうに眺め続けた。
「あれじゃ、新入りのオオカミさんが可哀想じゃないかなぁ……? わたしも試してみたいこともあるしぃ……♪」
レティアはノクスたちを置いて、ひとりで気配を探りながら強そうな気配のする場所へ向かった。彼女の中には新しい発見への期待感が膨らんでいた。これまで武器を使ったことのないレティアだったが、家には父のパーティの仲間が置いていった剣や武器がいくつもあり、それを観察した記憶があった。その記憶を頼りに、彼女は手のひらに集中し、虹色に輝く剣を作り出した。「色もそれっぽくつけてみよっと♪」と呟きながら剣を見つめる。見た目は本格的だが、実際の剣の重さはなく、木の枝のように軽々と振れる感覚だった。
「わたし、かっこいー♪ ふっふーん♪」
レティアは剣をビュンビュンと振り回し、自信満々のドヤ顔でニヤリと微笑んだ。その笑顔には無邪気さとわくわくした興奮が満ちていた。そんな彼女は気配を感じていたのは、近くに潜んでいた巨大なイノシシの魔物だった。「あれ? イノシシのお仲間さんなのかなぁ? じぃーじが言ってたけど、オス同士って縄張りを意識するんだよね……もしかして、どっちかがメスだったのかな?」
その瞬間、彼女の視線の先でさらに巨大なイノシシが姿を現した。レティアは呟きながら、目の前のイノシシをじっくりと観察した。「ごめんね……。お腹を空かせている子がいるんだぁ……」
レティアは静かに謝罪の言葉を漏らしながら、魔物を見つめ続けた。そのイノシシの魔物は先ほどよりも威圧的な雰囲気をまとっていた。「プシュー!」
紫色の息を吐き出して威嚇するイノシシ。その息が周囲に漂い、甘ったるいけれど危険な匂いが立ちこめた。レティアはレベルアップとともに異常耐性も獲得していたので無害だったが、普通ならば甘く危険な香りだと認識する頃には体が痺れて動けなくなってしまっている。そして次の瞬間、魔物は「グオォォーーー!!」と地鳴りのような咆哮を上げた。鋭い牙は前回のものよりさらに巨大でキラリと光り、紫色の液体を滴らせていた。加えて頭には太く立派な角が生えており、それが突き刺さったらただでは済まないことは一目で分かる。その威圧感に、レティアは一瞬息を呑むものの、顔には変わらず微笑みを浮かべていた。
『あれで突き刺して攻撃してくるんだろうなぁ……』
誰かに教えられたわけではないが、彼女は自然とそれを想像した。目の前にいる圧倒的な存在に対し、レティアは持ち前の無邪気さと好奇心で、次なる行動に移ろうとしていた。「ふっふーん♪ 今度はね、剣術を試させてもらうよぅ……まあ、ダメだったら魔法で終わらせちゃうけど。」
レティアは虹色の剣を構え、得意げな笑みを浮かべた。その瞬間、待ち構えていたかのように巨大なイノシシの魔物が突進を開始した。地面が揺れるほどの轟音を立てながら、巨体が迫りくるその姿は圧倒的な迫力を放っていた。「うわっ。これ……受け入れるのかなぁ?」
レティアは少し不安を感じながらも、体に虹色の膜を張り、真正面からイノシシの突進を片手で受け止めた。『ドォーン!!』
重い衝撃音が辺りに響き渡り、草木が音の振動でザワザワと揺れる。その瞬間、レティアは緊張で顔を強張らせながらも、力量を測るようにイノシシを見つめた。 「あれ? 大した事ない? なぁーんだぁ……ちょっと力んじゃったよぅ……。」 彼女はホッとした表情を浮かべ、笑顔を取り戻した。「ビックリさせないでよぅー。えっと……危険そうな角を斬り落としちゃおっ。」
レティアは呟きながら受け止めていた手を離すと、イノシシも体勢を整えるために後退した。その隙を狙い、彼女は虹色の剣を振り下ろした。『シュパーン! ……ドスンっ』
重量感のある音が響き渡り、斬り落とされた角の根元から紫色の血がじわじわと溢れ出し、滴り落ちた。イノシシは「グゥゥ……!」と低い唸り声を上げ、威嚇するようにレティアを睨みつけた。「さっきは魔法で相手の力量を見る前に倒しちゃったからなぁ……今回は武器で試させてもらうよぅ……。」
レティアは呟きながら、虹色の剣を握り直し、シュッとイノシシに詰め寄った。剣を振りかざす彼女の動きは鋭く、イノシシが反応する間もなく、彼女のいた場所をただ眺めるしかなかった。『シュパーーーン! ……ドサッ!!』
斬り裂く音とともに、イノシシの首が落ちる音が鳴り響いた。レティアは剣を見つめながら驚きの声を漏らした。 「わぁ……斬れ味もスゴイ。斬った感覚がないなぁ……。それに体が勝手に動くのもすごーい。」彼女は首を斬り落とすことだけをイメージしていただけだった。あとは体が勝手に動き、気づいた時には戦闘が終わっていた。その動きは、レベルアップに伴い剣術のスキルが向上した証だった。
彼女は両親から受け継いだ能力によって賢者や魔術師としての才能を持っていた。さらに、テイマーや剣術の能力が特に際立っていた。剣術とテイマーのスキルは、魔王を討伐した際にボーナスとして得られたものだった。彼女の力は、まだまだ未知の可能性を秘めているようだった。
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「わぁ、焚き火っていいねぇ! 暖かくて、きれいだよぅ♪」 レティアは焚き火を囲むように座り、嬉しそうに手をかざして暖を取っていた。その無邪気な姿に、ルーシーも少し微笑みながら腰を下ろした。「まあ……こうして火を囲むと、夜の山でも安心感があるわね。静かで落ち着くし……。」 ルーシーは火を見つめながら、小さく息をついた。 焚き火のパチパチという音が二人の周りに広がり、火の光が木々の影を揺らしている。二人は持ってきた食材を使って簡単な料理を楽しみながら話を始める。レティアが楽しそうにしゃべり出した。 「ねぇねぇ、ルーシー! 焚き火って何か特別な感じするねぇ。なんでだろー?」「……それは多分、みんなが火を囲むと安心するからじゃない? 明るくて、暖かくて……魔物が寄ってこないってのもあるけどね。」 ルーシーは冷静に答えつつも、焚き火の心地よさに自然と微笑みを浮かべていた。 レティアは炎を見つめながら、ふと昔のことを思い出すように言った。 「……お父さんもこういう風に、みんなで焚き火を囲んだことあったんだろうなぁ。こうやって楽しかったとおもうなぁ。みんなで冒険の話とか、いろいろ聞いたんだろうね〜。」「そう……レティーのお父さんは冒険者だったのよね。すごい人だったんでしょ?」 ルーシーが静かに問いかけると、レティアは少し誇らしげに微笑んで答えた。 「うん! すっごくすごい人だったよぅ。わたしも、そんな冒険者になりたいんだぁー」「ふふ……その夢、叶いそうね。レティーなら無茶ばっかりだけど、才能があるし……。」 ルーシーは少しからかうように言いながらも、どこか優しい目でレティアを見ていた。 夜が更け、星空がさらに濃くなっていく中、二人は焚き火を囲んで穏やかな会話を続けた。レティアが時折口ずさむ鼻歌と、ルーシーの静かな相槌が心地よい調和を生む。「これってさぁ、冒険者の憧れの夜だよねぇ! またこうやってキャンプしたいね、ルーシー!」 「
そのあと、レティアが近くの石の上に座り、小さな花や草を並べながら楽しそうに遊ぶ様子を、ルーシーは少し離れたところから見守っていた。太陽の光、風の音、川のせせらぎ——その場には自然の美しさと穏やかなひと時が広がっていた。 少し進むと、見晴らしの良い場所にたどり着いた。そこは大きな平らな岩が広がり、空が大きく開けた絶景ポイントだった。眼下には広大な森が広がり、遠くには小さな村や、さらに奥には雄大な山々が連なっているのが見えた。風が心地よく吹き、二人はその場に腰を下ろした。「わぁー! すごい景色だねぇ! 頑張って登った甲斐があったよぅ♪」 レティアは両手を広げて大きく深呼吸をし、開放感を全身で味わっていた。一方、ルーシーは少し息を整えながら、鞄からお弁当を取り出す。「これだけ頑張った後だし、美味しく食べられそうね。ほら、これ。」 ルーシーは丁寧に包まれたお弁当を広げ、中にはパン、チーズ、ハム、そしてばぁーばが作ってくれた小さなサンドイッチが詰められていた。さらに果物も添えられ、色鮮やかなお弁当に日の光が映えている。さらにレティアが狩りで仕留めたウサギ肉や鳥の肉のおかずも入っていた。「わぁ! ルーシー、すごーい! こんなに準備してたのぉ?」 レティアは目を輝かせながらお弁当を覗き込む。ルーシーは少し照れたように肩をすくめる。 「わたしじゃなくて、ばぁーばが準備してくれたのよ。でも、食べる前に手を洗いなさいよ。」「えへへ、もちろんだよぅ!」 レティアは魔法で水を生成し、二人で手を洗った。そして、岩をテーブルに見立ててお弁当を広げる。「いただきまーす!」 二人は声をそろえてお弁当に手を伸ばした。一口サンドイッチを食べたレティアは、目を輝かせながら声を上げる。 「わぁ、美味しい! チーズが濃厚で、ハムもジューシーだねぇ! これ、ばぁーばの愛情がこもってるね!」「そうね。ばぁーばの料理は、やっぱり家庭の味って感じがして落ち着くわよね。」 ルーシーも静かに頷きながら、小さなパンに手を伸ばした。 食べながら二人は景色を眺めたり、次の冒険について話したりしていた。レティアが「次はあっちの山にも登りたいなぁ♪」と指差すと、ルーシーは
その後、二人が再び歩き始めると、今度は小さなリスが木の上から顔を覗かせた。レティアが手を伸ばすと、リスは興味深そうに近づいてきて、彼女の指先を軽く触れる。 「わぁ、可愛い! ルーシー、見て見て!」 レティアは嬉しそうに声を上げ、ルーシーも思わず微笑む。 「……まあ、リスくらいなら大丈夫ね。でも、あんまり触りすぎないでよ。噛まれるわよっ!」「むぅ。かまれないもんっ」 レティアが頬を膨らませて不満そうに言い返した。 その後も、二人は山道でさまざまな動物たちと出会い、自然の豊かさを感じながら進んでいった。 山道を歩き続けてしばらくすると、涼しい風が頬をなで、耳にかすかに水が流れる音が届いてきた。ルーシーがふと立ち止まり、音の方向を指さした。 「……聞こえる? あっちの方に滝があるみたい。」「わぁ、本当だ! 見に行こうよー♪」 レティアが興奮気味に声を上げ、ルーシーの手を引っ張りながら音の方へ向かう。木々の間を抜けるたびに水音が徐々に大きくなり、目の前に広がる光景に二人は息を飲んだ。 目の前には壮大な滝が流れ落ちており、太陽の光が水しぶきに反射して虹を描いている。透き通った水が滝壺に勢いよく注ぎ、辺りには涼やかな霧が立ち込めていた。岩肌には青々とした苔が生え、周囲の木々もそのしっとりとした環境で生気をたたえている。「わぁ……きれーい……。」 レティアはその場で立ち尽くし、瞳を輝かせながら滝をじっと見つめていた。一方でルーシーは少し微笑みながら、近くの岩に腰を下ろして呟く。 「確かに、こんな場所ならずっと眺めていられそうね……。」 レティアは滝壺の近くまで駆け寄り、手を水に浸してみる。冷たさに思わず声を漏らしながら振り返った。 「すっごく冷たいよっ! ルーシーも触ってみてよーぅ♪」「……いいわ。濡れたら寒くなるじゃない。」 そう言いながらも、レティアの楽しそうな様子に釣られ、結局ルーシーも滝壺へ近づき、水に手を浸してみた。 「……冷たい。でも、気持ち
レティアは首を傾げながらも、まるでそれを気にしていないように微笑む。 「んー? 小動物さんだと思うよぅ。大丈夫だって!」 無邪気な笑顔を浮かべつつそう言った瞬間、窓に影が映るのが見えた。「……え!? わっ、なにこれ……。」 ルーシーが立ち上がり、警戒しながら窓の外を覗こうとする。その動きに合わせてレティアも後を追い、二人の気配が急に緊迫したものに変わる。「わぁっ。誰かいるのかなぁ?」 レティアは軽い調子で話しながらも、ノクスたちの気配を探り始める。窓の外には何かが動いている気配があるが、その正体ははっきりと分からない。 その瞬間、ドアの外でノックの音が響いた。 『コンコン』「え? ちょ、ちょっと……この時間に誰よ?」 ルーシーの声は少し上擦り、レティアにしがみつくように立ちすくむ。 レティアは手を空にかざし、虹色の球体を作り出してドアの方に向けた。そして、じっとドアを見つめながら声をかける。 「はぁーい。ど、どなたですかぁー?」 するとドアが静かに開き、そこには小さな動物が姿を現した。シャドウパピーズの小さな狼の一匹が家に戻ってきただけだと分かり、レティアは笑顔で言った。 「あ、シャドウパピーズ! びっくりさせないでよぅ~♪」 ルーシーは肩の力を抜き、大きく息を吐く。 「もう……心臓止まりそうだったわよ……。なんでこんな時間に戻ってくるのよ!」 レティアは悪戯っぽく笑いながらシャドウパピーズを撫で、影に戻るよう促した。緊張が解けた二人は、再び話しを続け明日の予定を話すことにした。 レティアがテーブルに地図を広げて話し始める。地図はレティアの家に長年保管されていた古いもので、少し色褪せているが、細かな地形や森の特徴が丁寧に描かれている。「これ、すごーい! お父さんのパーティーが使ってたやつなの!」 レティアは目を輝かせながら地図を指でなぞり、嬉しそうにルーシーに説明をする。ルーシーはそれに興味深げに頷きながら地図に視線を落とした。「ふむふむ…&he
昼食を終えた後、レティアとルーシーは森の中を散歩しながら会話を楽しんでいた。そんな中、ルーシーがふと周囲を見回して尋ねた。 「そういえば、レティーの契約獣は?」 その質問に、レティアはハッとしたような表情を浮かべた。契約した覚えはないが、ノクスたちは勝手に従ってくれていたし、今は待機しているのだろうと軽く考えていた。 「うぅーん。その辺をうろついていると思うよぉ?」 軽い調子で返事をするレティア。 しかし、その答えにルーシーは呆れ顔を見せた。 「はぁ? あんなのを野放しにしていたら……大ごとになっちゃうでしょ! きちんと管理をしなさいよ……。」 レティアは管理といわれても困惑してしまう。家につれて帰るわけにもいかないし、村から離れている家でも目立ってしまう。そして、最近仲間になったばかりのシャドウパピーズのことを思い出した。「ね、ねぇー普通の狼だったら目立たないかなぁ?」 レティアはルーシーの袖を引っ張りながら、少し不安そうに尋ねた。「ん? 狼? 狼は危険よ。大きいし……凶暴でしょ。まあ……ノクスに比べれば……目立たない……かな……? レティー……他にもいるの? その狼。」 ルーシーは顔を引き攣らせながら聞いてきた。「あー……うん。さっき知り合ったの! ノクスにご飯をあげてたらね……匂いに誘われて近づいてきたのぉ。えっとね、シャドウパピーズって名前をつけたんだぁー♪」 レティアはにぱぁと無邪気な笑顔で答えた。「そう……今度は、魔物じゃないだけマシかな……狼なら犬より大きいけど、まあ……大丈夫じゃない? どんな狼なのよ?」 ルーシーは呆れつつも、真剣な表情で尋ねた。「うーん……ノクスよりね、ちいさくてかわいーよ♪ ノクスを見てね……くぅーん、くぅーんって怯えてたのぉ。」 レティアはその場面を思い出し、笑顔で答えた。「ふーん……可愛いなら良いんじゃないのかな? ……いや、あんたの可愛いは……基準がおかしかったわ……はぁ。見てあげるから、呼んでみなさいよ……。」「おかしくないもんっ。シャドウパピーズー!!
「レティアが、お友達を連れてくるのは初めてじゃないのかい?」 じぃーじが、優しい笑顔を浮かべながら問いかけた。その言葉にレティアは、満面の笑みで答える。「うん。はじめてだねぇー♪ だって、みんな怖がっちゃってるんだもーんっ。」 レティアはかつての友達とのことを思い返していた。遊びはするけれど、感情を感じ取る力のせいで、相手の怖がる心が伝わってきてしまう。その結果、レティア自身も壁を作り、心の距離が縮まらなかったのだ。 でも、ルーシーは違った。表情はムスッとしていて口調が強くても、彼女から伝わってくる感情は恐れではなく、レティアへの好意だった。そのため、レティアも安心して甘えたり頼ったりすることができた。「そうよね……レティーは、ハチャメチャ過ぎるものね……驚かされてばかりだったわね。あはは……。」 ルーシーは少し照れながら笑い、これまでの出来事を思い返して苦笑いを浮かべる。 その時、何かを思い出したようにルーシーは顔を上げ、持っていた獲物をじぃーじとばぁーばに差し出した。「あ、あのぅ……これ、お土産です……良かったら食べてください。」 緊張した表情でしどろもどろに話す彼女に、レティアはすかさず声を添えた。「あ、それねー。ルーシーが頑張って獲ってくれたんだよぅ♪」「……レティー、うるさいわよっ。」 ルーシーは慌ててレティアを見つめ、恥ずかしそうに言う。「だーって、ホントじゃーん♪」 レティアがからかうように返すと、ルーシーは顔を赤くしながらそっぽを向いた。「恥ずかしいじゃないのっ。ううぅぅ……。」 その様子を微笑ましく見守っていたばぁーばが、柔らかな声で言った。「さっそく調理をして、夕食に食べるかねぇ。じいさんも手伝っておくれ。ルシアスちゃんは好きな部屋を使っておくれ。」 そう言うと、ばぁーばはじぃーじを連れて調理の準備のため